from 03 Dec.,07

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野上道男による地形発達シミュレーションのページEnglish


 地形変化は、1)斜面、2)河川、3)海岸線、の3つの領域で起きている。そこで、これらの領域で起きている地形変化の原理を微分方程式で表現し、現実の地形に関する地形計測と地形学で蓄積されている知見に基づき、必要なパラメータを設定し、現在の地形を出発点として、計算によって未来の地形を予測する。これを地形発達シミュレーションと呼んでいる。
 ここでは、C言語で記述した約1万行のプログラムをコンパイルした Windows 実行形式のプログラムを「地形シュミュレータ」と呼び、数十のパラメータについて例にあるような値を定義したパラメータ定義ファイルを読み込んで、シミュレーションが行われる。
 現在のところ次のような地形変化現象をシミュレートできている。

1)斜面領域
・面的でかつ緩慢な物質移動による侵食・堆積(=地形変化)
 クリープ・動物その他による撹乱
現象: いわゆる地形の従順化
2)河川領域
・河川網に従う物質移動による侵食・堆積(=地形変化)
 流水を駆動力とする物質の移動
 礫の摩耗による礫径の減少・礫流量の欠損
現象: ガリの発達、氾濫原・扇状地の形成、凹形縦断形、扇状地形成
3)海岸線領域
・波浪および海底流による物質移動(=地形変化)
 波浪による陸地の浸食(海食崖の後退)
 波食限界深までの海底流による物質移動
現象: 海食崖の形成(段丘化)、海底堆積面・侵食面の形成
  (風向ごとの開口度(フェッチ)に依存する波食・波食限界深)

シミュレーションに取り込んでいる外部(独立)変数
 1)気候変化、2)海面変化(前項の結果)、3)地殻運動、4)火山活動、などは地形変化とは独立に地球の歴史の必然として決定されるもので、過去が繰り返されるような特性をもつものが多い。そこで気候変化と海面変化は 10 万年程度の過去の出来事が再び今後の 10 万年間に繰り返されると仮定する(海洋同位体ステージの氷期−間氷期1サイクル分)。新しい場所での火山活動の開始、隕石の落下などは想定外である。
 1)気候変化の原因については不明な点が多いが、過去30万年あるいは70万年間については周期性が明瞭である。気候の寒冷期には北米大陸・ユーラシア大陸北西部に巨大氷床が形成されるので、その氷量に応じて海水が減少し、海面が低下する。従って海水準は気候変化の指標であるが、巨大な大陸氷河の氷量が気候変化に応答する時定数の問題もあり、単純な関係にあるのではない。ここでは、氷河地域・周氷河地域以外の地域の気候を、海水準の低下進行期および低海水位持続期は相対的寒冷期、海水準の上昇進行期および高海水準持続期は相対的温暖期であるとした。気候の寒冷期・温暖期の別で、地形変化の速さきめる拡散係数やその他のパラメータが変わるとしている。
 3)プレート境界型の地殻変動は、ひずみの蓄積・解放(地震)の周期がかなり規則的であるとされており、あらかじめ与えた期間(たとえば数百年)ごとに、ある量の隆起が起こる、というような条件の与え方で良いと思われる。内陸型の場合でも周期は長くなるものの同じような条件の与え方をすることにする。対象地域の地殻運動の様式によって、4方向の傾動(と速度)と活断層運動(向きと速さ)に対応できるようにしてある。なお対象域内一様の地殻運動は地形に与える影響という点では、海面変化と等価であるが、海面変化はさらに広域であることから、一様隆起などのオプションを選択できる。
 なお、対象が内陸流域の場合は、本流河川の河床変動(時代既知の段丘地形の構造などから推定できる)を海面変化に相当するもの(基準面変化)とみなしている。

領域境界の位置とそこにおける条件
 斜面領域と河川領域の境界は地形的には河川と隣接する斜面の境界線である。そこを境に物資の移動様式が変わる。すなわち河川領域では流水が持つエネルギーに駆動されて物質が下流に輸送される。定常的な水流が始まる点は水源点であるが、強い降雨時にはもっと上流から水流が始まる。地上には水流がなくても地下にパイプ状の流路が形成されれていることも多い。すなわち斜面領域と河川領域の境界位置はかなりファジーである。そこでその位置を斜面上の流線の合流特性と集水面積で与え、かつ確率的にその集水面積の閾値を変えている。なおこの集水面積は寒冷期・温暖期で変えることで、後氷期のガリ形成(侵食前線の遡上)がシミュレートできている。このように境界の位置は浮動するが、そこにおける土砂量(フラックス)は保存される。
土砂量の保存則は、地形発達シミュレーションのもっとも基本的な原理である。ある区画への流入量と流出量の差が、そこの高度変化、すなわち地形変化であるからである。
 海と河川の境界は河口である。河口位置は海面変化などやそこでの堆積・侵食によって移動する。この境界では、海面すれすれ(0m)というポテンシャル条件とフラックスが保存されるという境界条件のみが与えられている。斜面が海に接している場合(海食崖)でも通常の斜面領域の物質移動が起きているとしている。ただし波浪による崖基部の浸食が断続的に(暴風の再現期間で)起こるので、斜面と海の境界位置が強制的に移動することになる。例えば、その海岸地点の風に対する海面の開口度が大きいと海食崖の後退速度が大きくなり、結果として海食崖斜面の勾配は急になる。
 波浪作用限界深は海岸線領域の沖への境界である。当然のことながえら、粘土やシルトは浮流してこの限界深より先の沖にまで運ばれる分もある。しかしこれは対象外であるとして、保存則の収支からは無視している。限界深は風向とそのときの海面開口度に依存するとしているので、その境界位置は条件によって浮動する。

斜面・河川・海岸線領域における基礎方程式

----------野上道男の論文を雑誌でご覧ください--------


シミュレーションの実際
事例01
 アメリカ合衆国(10m−DEMが入手できるので)最南部の半乾燥地帯に見られるビュート地形は、ペディメントの形状が大陸棚に似ていることから、これを沈水させて初期条件としたシミュレーションを行ってみた。
 アニメーション画面の左上には、海面変化曲線、想定した(等速)隆起量の累積値が示されている。横軸は経過年数を示し、右端で12.2万年である.縦軸は高さ(深さ)で、海水準は、+5m から出発し、11万年後に、-135m に達し、その後、0m まで復帰するとしている。隆起速度は、50cm/1000年としているが、この速さでは、前サイクルの 5c, 5a 相当の海成段丘面が離水することが示されている。
 ・初期条件: 沈水させた Deming Butte (New Mexico)
 ・地形発達シミュレーション結果のアニメーション(サイズ:21.5MB)
 ・シミュレーションに用いたパラメータのリスト

  事例02
 ・初期条件: 沈水させた筑波山 (関東平野北東部)
 ・地形発達シミュレーション結果のアニメーション(サイズ:30.0MB)
 ・シミュレーションに用いたパラメータのリスト

これらのアニメーションはダウンロードして、出所の明示という条件付きで自由に使ってくださって結構です。