刑法入門講義-刑法の新しい世界



      11月下旬刊



   はしがき

 これまで、日本の「戦後」を、何となくひとまとまりのものとして考察してきたが、実は七〇年代後半を境に大きく転換したように思われて仕方がない。特に、刑事法の理論は変わったし、今後一層変わらざるを得なくなるように思われる。
 この数年、刑事法についての講演の機会を与えていただくことが非常に多かった。本書は、それらの講演原稿を纏めたものである。大学の法学会、学園祭、出版社主催の会、そして最も中心は実務家の研修会であった。そして、そのうちいくつかのものは、雑誌などに活字化させていただいたが、その数倍の講演メモ・レジュメ・原稿が貯まってしまった。それらを整理しているうちに、「刑法の基本部分にかかわるものだけでもピックアップして整理し直してみたら」という気になった。講演を聴いていただいた方に、「あの感じで刑法全体を説明した本はないのですか」と質問されたことを思い出したからである。
 もとより「私のような者が講演集を出す意味などあるのか」という不安は大きかったが、「ニーズも全くないわけではないであろう」と、図々しくも刊行させていただくことにした。そして、講演の際には戦後を俯瞰するような話が多いため、刑事法が大きな転換点にさしかかっていると強く感じていたので、変化の方向性を教科書や論文集よりわかりやすい形で表現させていただくことも無意味ではないと考えたという面もある。
 講演の対象は、一般社会人、法学部の学生、実務家など様々で、各回のトーンに差異があったため、基本的には刑法を学びはじめる方々を念頭に、大きく書き改めさらに書き加えた。ただ、なお表現が厳密でなかったり、そして逆に堅苦しくて読みにくかったりする部分も残されているかもしれない。その点は、お詫びしてお許しいただくしかないと考えている。


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