刑事訴訟法講義2版



 司法制度改革の大きなうねりは,刑事訴訟法の世界に大きな影響を与えた。裁判員制度や被疑者国選弁護人選任制度という新たな制度も導入されて,刑事司法は大きく変わろうとしている。例えば,証拠開示の拡充を伴う公判前準備手続等が動き出し,捜査,公判双方の領域でこれまでの「やり方」に変更を迫っている。その大局的方向性を見据えることが大切であるが,現時点で最も重要なのは,個々の手続の具体的な変化を把握することである。教科書には,一連の法改正を的確に伝えるという使命があろう。今回の改版の第1の目的も,まさに法改正を正確かつ分かりやすく伝えるという点にある。
 第2に,判例の蓄積に対応することも必要である。現実の刑事司法を動かしている判例が,着実に積み上げられている。改版にあたっては,重要な新判例を整理した上で紹介したつもりである。
 第2版においても,法学部の学生や法科大学院生に,現在実務において妥当している刑事訴訟法の解釈をできる限り分かりやすく講ずるという目的は,変わっていない。本文は基本的な説明部分で、色網掛けの部分は解釈論上重要な争点と重要な判例である。ポイントを落とした部分は、やや細かな論点及び、若干古くなった論点、下段の注は、補足的説明など、まさに注としての内容に限定した。そして,今回も,刑事実務に携わっている警察官,法務検察職員,裁判所職員などの方々も視野に入れている。
 法科大学院時代が本格化し,実務と理論研究の架橋が一層強調されてきている.もとより本書は,実務の現場と大学の研究室との共同作業の一つの「型」を模索して刊行したが,架橋がまだまだ不十分であることは自覚している。初版を刊行した後も,裁判所,大学法学部共に忙しく,討議の時間が十分にとれなかった。しかし,裁判員制度の実施を目前にして,実務と理論の歩み寄りが,「国民にとって分かりやすい刑事司法」という共通の目標を意識することにより,更に加速される必要があるということを強く感じている。今回の改訂の後も,そのような意味でもよりより教科書を目指して,努力していきたい。


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