条解刑法(弘文堂)



 1 本書は、新しい刑事立法についても対応して解説した、最も新しいコンメンタールである。そして、現在の問題はもちろん、将来生じる新しい紛争に対する解決の展望も含んだ内容のものであると自負している。
 本書の企画の意図は、実務において現実に妥当している刑法を一書にまとめることにあった。そして、実務で解釈・運用の指針としての役割を果たしている判例ないし裁判例を綿密に調べ、それをできる限り整理して、「実務の刑法の考え方」を提示しようと試みた。それによって、現実に生起している具体的事案に取り組んでいる実務において有用かつコンパクトな注釈書を目指したものである。
そして、法科大学院などが導入され、実務と学界の関係が見直されようとしている。その流れは、必ずや刑法解釈の内容にも及ぶと予想される。本書が現時点で「生きた刑法」を提示することは、それなりに意味のあることではないかと考えている。
 2 具体的には、刑法典の各条文について、実務における実際の解釈・運用がどのようなものであるかを示し、さらにその運用等の根拠として考えられているところを簡潔に記述した。現実の事案を離れた理論的な問題について研究することは本書の目的ではないので、重要な論点に限って各種の見解のあることを紹介するにとどめた。特に外国の刑法学に関する記述はあえて行わなかった。そして、紙数の制約もあり、参照すべき文献として明示するのは本書と著作形式を共通にする他の注釈書(コンメンタール)にとどめ、概説書、研究書、論文等を直接引用することは避けた。ただ、執筆に際し、多くの業績から学ばせていただいたことはもちろんである。
本書では、実際の使いやすさを重視し、叙述の統一性および整合性を持たせると共に、関連する条文相互間でのクロス・レファランスを徹底し、関連する注釈がいずれの個所にあるかを明らかにすることに努めた。
 3 本書の執筆は、第一線で活躍されている判事、検事を中心に学者を加えて、分担していただいた。しかし、叙述の整合性・統一性等の観点から、編集委員6名が50余回にわたる討議を重ね、執筆して頂いた原稿を調整させていただくと共に、修正・加筆をさせていただいた。結果的には、執筆いただいた原稿を大幅に削らせていただくことになってしまった。分担執筆者には、実務における刑法の考え方を緻密かつ明快に文章化していただいたが、議論をして筆を加えさせていただいた以上、完成した本書の内容および文章に関する責任は、編集にあたったわれわれにある。その点をはっきりさせる意味で、分担執筆者の皆さんの了解を得て、本書にはその分担区分を掲記しないこととした。
 4 構想が生れてから6年近くの歳月を経て、ようやく本書を世に出すことができる。早期に原稿を出していただいた執筆者には多大なご迷惑をおかけしてしまった。また、弘文堂社長鯉淵年祐氏、編集部丸山邦正氏、高岡俊英氏には、長期間にわたって我慢強く編集作業を支えていただいた。分担執筆者、編集関係者には、心から御礼を申し上げる次第である。